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ブレゲスーパー コピー の「トラディション レトログラード デイト 7597」にブルー文字盤の新作が追加

ブレゲスーパー コピー の「トラディション レトログラード デイト 7597」にブルー文字盤の新作が追加
  ブレゲは2020年に発表した「トラディション レトログラード デイト」の新たなバリエーションとして、ブルー文字盤を備えた新作「トラディション レトログラード デイト 7597」を披露した。濃いブルーのシックな文字盤は、着用時でも鑑賞できるアンスラサイトカラーのムーブメントと見事なコントラストを成している。

  


  ブレゲスーパーコピーが今回披露した「トラディション」コレクションの新作「トラディション レトログラード デイト 7597」は、新たにブルー文字盤を採用した。シルバーカラーのゴールド製文字盤を備えた2020年発表のモデルとは大きく雰囲気を変え、伝統を継承しながらモダンな印象も併せ持つ。

  


  このトラディションは2005年に誕生した、ブランドを代表するコレクションのひとつだ。文字盤側からムーブメントのあらゆる機構が眺められるブランド初のシリーズで、そこに「スースクリプション」や「モントレ・ア・タクト」といった懐中時計から着想を得て設計された。

  


  1797年に発表されたスースクリプションウォッチには、時と分を読み取る1本の針のみが備わっていた。このミニマムデザインの洗練されたスーパーコピー 時計 N級は、そのコンセプトと同様に、注文時に価格の4分の1を前払いするというシステムも、当時としては奇抜なものだった。

  ブランド創業者 アブラアン-ルイ・ブレゲは、これと同じキャリバーを使って最初のモントレ・ア・タクトをデザインし、1年後のフランス工業博で発表。現在のトラディションは、コントラストを成す要素や現代的な手法を使い、ブレゲのデザインコードを時計に取り入れている。

  本作も、ブレゲのオリジナルスタイルを深く探求したモデルのひとつだ。ブリッジの形状から「パラシュート」の名で知られる衝撃吸収機構、テンプやテン輪のサイズまで、あらゆる部品がアブラアン-ルイ・ブレゲが創作した懐中時計や腕時計に内在する特徴から着想を得た。そのため本作は、左右対称にレイアウトされたパーツの構造が目を引くだろう。

  


  加えて本作には特徴的なレトログラード式デイトが搭載されている。この反復式の日付表示も創業者ブレゲが大切にしていた機能で、彼はこの複雑機構を備えた時計を初めて開発した時計師のひとりに数えられている。日付針がムーブメントの上を滑らかに移動できるように、針の軸の部分から日付の数字を配したセクターの間で、ブルースティール製のレトログラード針を何段階にも曲げる必要があったため、この形になっている。

  


  さらに、日付表示を読み取りやすくするためにセクターは180度まで拡大され、文字盤カラーを反映したブルーでコーティングされている。この日付セクターには、シルバーのパウダーで仕上げられた数字とゴールドのドットが交互に配されている。この日付を設定する際は、10時位置のプッシュボタンのスクリューロックを緩め、これを押して針を目的の日付に進めるだけで簡単に調整可能だ。

  


  Contact info: ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211

Whimsical Saturday

「なーんかいい感じー」
 あたしは屋上の手すりに身体を預け、眼下を見渡す。強い風が髪をなぶるけど視界の邪魔にならない程度に好きにさせておく。
 雲が夕陽と闇の色を纏う黄昏時。ほんの一時の昼でもない夜でもない曖昧な風景。あたしの一番好きな場所。
 あっちこっちで明かりが灯っているけれど、所々、闇がわだかまっているように見えるのは公園や森や林のある所。
 宝石のように綺麗な夜景のところは沢山あるけど。闇と同化したような自然が沢山残っているところだっていっぱいあるけれど。でも人工の輝きと自然の息吹の同居したアンバランスなバランスのとれた場所はここしか知らない。
 ここ周辺で一番高い場所にあるあたしの特等席。
「……欲しい?」
 ふいに気配もなくふわりと肩になにかがかけられた。
 振り返れば、そこにいたのはこの特等席のオーナーであるあたしの一番大切な人。
 礼も夕貴さんも婚約候補に挙げるぐらいにはちゃんと好きだけれど。それでもこの人を想う気持ちは次元が違う。恋愛感情なんて通り越しているとても大切なかけがいのない人。
 今日ここにいることは告げていないけど、でもどこにいてもあたしを見つけてくてる人。
 その人の闇よりも深い、でも輝きを持った瞳が微かに笑っている。
「今見えている景色。物。全部。すずが望むなら手に入れてあげるよ?」
 穏やかな声は真実。この人ならそれぐらい簡単にやってのける。
 でもあたしは肩にかけられた上着を風に飛ばされないよう手で押さえてその言葉に首を振る。
「自分の物じゃないから綺麗だと思えるんだと思うの」
 見守っていられる。守りたいと思う。無くしたくないと思える。
「あたしの物になったら……きっと飽きたら壊しちゃう」
 飽きなくても、きっと色あせて見える。だからすぐに切り捨ててしまう。
「僕からの贈り物でも?」
 その声に一瞬言葉に詰まる。
「むー……どうしてそういう意地悪言うの?」
 微かにイタズラめいた笑みにあたしは唸るしかない。
「素朴な疑問だったんだけど」
 笑いながらいってもちっとも真実味はないけれど。
 あたしがこの人からの贈り物を粗末にするわけがないのを知っているから。
「……部外者として無責任に手を出せる方が好きだもの」
 気まぐれに。心のままに。
「すずらしいね」
「どゆ意味よー」
 むくれてみせても、相変わらずたのしげに笑みを浮かべている。
「……だからね、あたしはこの席でチープな王様を気取ってるのが好き」
 ここから見下ろすと全てを手に入れた気分になれるから。
 綺麗なままで眺めていられるから。
「でもそれが一番の贅沢なんじゃないかな?」
「……んー……もしかしたらそうかもー」
 もしかしなくても最大最悪の贅沢と我が儘なんだけど。
「でも、すずがそう望むなら……」
「ひゃう」 
 突然の突風に上着を持って行かれそうになって言葉の後半部分は聞こえなかった。首を傾げて聞き返してもただ笑みを浮かべるだけ。
「中に入ろう。夜風は毒だよ」
 そして話を変えるように軽く背を押された。
 この人があたしの不利になることは絶対にしないと判っているから。
 だからあたしは促されるままに部屋に戻った。

Tribulation Friday

「だいたいー、足し算引き算さえできれば日常に支障はないのに。なのに何だってこんな訳のわからない公式を覚えなきゃならないのー?」
 あたしは教科書とノートの上に突っ伏した。
「俺個人としてはまあ肯いてやらないわけでもないが、教師としては無駄口をたたく暇があるなら公式を覚えるかそれの応用できるようにしてもらいたい所なんだが?」
 呆れた夕貴さんの声が頭上を通過する。
 まあ……小テストとはいえ勉強につきあってもらうのは悪いと思ってるのよ。でもいくら学校の方針とはいえ頻繁に小テストをやるのって言うのは人間として誤った道を進んでるとしか思えないわけで。
「……本当にこれ覚えてれば人並みの点とれる?」
 突っ伏したままだから声はいささか不明瞭。至近距離すぎて見えないけどノートには訂正のあとだらけ。
「……覚えられたのか?」
「テスト用紙がくばられるまではちゃんと覚えてるよーぅ」
 記憶力は悪くないもん。公式だけはきっちり覚えている。問題用紙が手元に来たらすかさず公式をメモするその時までは。
「なら、きちんと当てはめて計算ミスさえしなければな」
「それじゃだめじゃない!あたしの必殺技って計算ミスなのに!!!」
 がばりとあたしは身を起こした。
 平均点なんて贅沢は言わない。でもせめて半分ぐらいは取りたいと思うのが人情だとおもうのよ。
「……計算ミス前提でどうするの。自分で足し算引き算ができればとかいっておいて」
 海外生活が長かったせいで、唯一苦手……というよりなじめないらしい教科である古典のノートに目を通している礼が呟く。
 今日は古典の小テストもあるのよね。一限目の夕貴さんの授業とちがって古典は三限目なんだからわざわざここでやらなくてもとかおもうんだけど。
 ただ、礼がそんな感じだから、あとのことを考えるといろいろ気が進まないんだけど、それでも夕貴さんに教えてもらっている。
 ……まあ……うまくいけば問題を教えてくれるかなーとかテスト作る邪魔できるかなーとか下心もあるんだけど。
「でもこれ掛け算割り算入ってるしっ」
「……なんですずって俺に対してそうやって反抗的なんだろう」
 反抗じゃなくて当然のことを言っただけだし。
「日頃の行いでしょー」
「……愛されてる気がしない」
 恨みがましい顔されてもこれも愛だと思ってくれないと。
「なーんか戯言いってる暇があったら夕貴さんにばれないカンニングの方法考えてよー」
「……計算ミスを無くす方が簡単に一票」
 それにため息交じりに答えたのは夕貴さん。
「俺もそっちに一票」
 ついで礼。
「……なによーいつそんなに二人は仲良しさんになったのよー」
 そりゃふだんもそう仲が悪い訳じゃないけど特別いいわけでもないのに、あたしをいじめる時だけ一致団結しなくたっても。 
「俺たちは建設的な案を出してるだけだ」
「そうそう」
 むう。やっぱり仲がいいしー。
「礼が接触テレパスじゃなくて普通のテレパスだったら苦労しないのにー」
「……ねえその場合、苦労しないのはすずであって俺の苦労は無視?」
「世の中って理不尽よね」
「理不尽なのはお前だろうが」
 夕貴さんの深いため息。
 そんなことをやっていると朝練の終了を告げるチャイムが鳴った。 朝のHRまであと二十分。ぼちぼち教室に行かなくちゃならない。
「あああああああああ結局公式しか覚えてないー」
 まあ公式覚えて計算するだけだって言えばそれまでなんだけど。
 でもそれができれば好成績なわけで。あたしは再び机に突っ伏す。
「ああ……そうだ」
 ふと夕貴さんが呟きあたしは顔を上げ……浮かんでいた笑みに凍り付く。
「今回のテストで平均点の八割越えてなかったら覚悟するように」
 ………………。
「……か……覚悟って……なんの?」
 自分でも声が引きつってることは判った。
「それを知りたきゃ、低い点を取ってみるんだな。人間、冒険心はそれなりに大切だ」
「……世の中には知らなくていいこともあるみたいだからとりあえずがんばってみる」
 そこはかとなく身の危険を感じるし。礼君ちゃんと守ってね?
「そのかわり、五十点越えたらすずが行きたがってた例のデザートバイキングに連れってってあげるけど?」
「ほんとっ?」
 抽選で招待されるバイキングだからどんなに行きたくても行けない幻のデザートバイキング。行けるならどんな手段を使ってでも絶対行きたい。否行かねばならないっ!
 礼からご褒美もらう筋合いはないのだけれどくれるって言うなら遠慮なく。
「……甘やかしすぎだ」
「すずが覚悟するようなことされるなら、コネ総動員してでもやる気を出してもらうよ。とうぜんだろ?」
 なにやら若干火花が散っている二人を無視し、あたしは何もかも忘れて、まだ見ぬデザートバイキングに心を馳せた。

Annoying Thursday

「ワタクシ達は友達ですわよね?」
 お嬢様のステータスシンボルとも言える豪奢な縦ロールも見目麗しく、帰れるまで図書室にでも居ようかなと思っていたあたしの前にいきなり立ちはだかったのは、隣のクラスの委員長、西方院麗女史。
 ろくに話をしたこともないその彼女がそういうならば、その取り巻きが威圧するようにあたしを囲っているのはきっと彼女なりの親愛の情……なんだと思う。自信はぜんぜんないけど。
「なのに、どうしてワタクシをさしおいていつも冬樹君と仲良くしてらっしゃるのかしら?」
 ああ……そういうお話ね。今さらというかなんというかだけど。
「従兄妹同士だからといって少し度が過ぎるのではなくて?」
「……別に仲良くしてるつもりはないけど」
 礼とは家でのことはさておいて、学校ではごくごく普通に接するようにしている。ときどき一緒に帰るぐらいで「仲良く」と言われるほど特に仲がいいと思うようなことはしてないはずなんだけどなー。
 とたん「白々しい」とか「とぼけるのはやめなさい」という類の単語が取り巻き達から発せられるけど、そっちはあえて無視。
 人の話を聞く気がない相手に言い逃れは通用しないし。だからって間違っても礼は従兄だからそれなりに親しいけど、さらに婚約候補者で現在同居中でーす。なんて本当のことは言えない。
「ではお聞きしますわ」
 西方院さんは軽く咳払いをして周囲を黙らせる。
「仲良くしていらっしゃらないなら、あなたと冬樹君のお弁当のおかずが一緒なのはどうしてなのかしら」
 何故も何もそれはあたしが作ってるから以外の何モノでもないわけで。ちなみに白山兄弟のお弁当も同じモノだったりする事実は告げるべきか否か。告げた場合、確実に状況は悪化すると思うけど。
「しかもこの数日間そうだったという報告がありましたわ」
「……その情報の出所ってどこ?」
 そのことに否定はしないけどあえて肯定もしない。ただ素朴な疑問を口にしてみる。
 あたしと礼は一緒にお昼を食べてる訳じゃない。お弁当を見比べない限りそれは判らないはず。というか何でそれを確認しようと思ったのかが気になるのは当然だと思うし。
「ニュースソースは公表しないのがマナーですわ」
 まあ、そんなことだろうなとは判ってはいたけど胸を反らして自信満々にいうことでもないような。
「それよりも、否定なさらないと言うことは事実ということでよろしいのかしら」
「それを調べた人がそうだって言うならそうなんじゃない?」
 ニュースソースはあとで洗い出すとして、西方院さんとその周囲の敵意に満ちた眼差しをそのまま受け止める。
「でも、とりあえず、あたしと話すよりも自分でお弁当作ってみた方が建設的だと思うんだけど」
 ……とはいってはみるものの、市販のものは別として、礼があたし以外の作った食べ物を受け取ることはほとんどない。
 別にうぬぼれとかそういう事じゃなくて、ただ単に他人が作った食べ物に危機感を持っているだけのこと。詳しいことは教えてくれなかったしあんまり聞きたくもないけど、以前もの凄いものにあたったとかなんとか。
 途端、西方院さんの顔が引きつった。
 あー……もしかして、すでに玉砕だったりー……。
「ま……用がそれだけならあたしはこれでー」
 これ以上こじれないうちにとっとと退散。……出来るわけもなく、取り巻き数人にがっしりと腕をつかまれてしまう。
 うー……純粋な力業は一番苦手。でも手を出さしたのは向こうが先だから正当防衛よねー。
「おや、そういうことはあまり感心しませんねぇ?」
 どうしようかと思っていたところへのほほんとした声が入ってきた。
「白山先生」
 西方院さん含め、いくつかの声がハモる。
「どうしても。と言うのでしたらもっと目立たないところでやらないとだめですよ?」
 とたん、思い出したかのようにぱっとあたしの腕から手がはずれた。
「べ、別にワタクシ達は何もしてませんわ。ねぇ?」
 西方院さんはあたしに同意を求める。
 確かに何もされてはいないからあたしはただ頷くのみ。
「ああ。それは失礼しました。……ところでみなさん、お暇そうですから一つ私の人体実験におつきあいしてくださいませんか?」
 にっこりと優しい笑顔でそう言うことを言い出すあたり悠弥さんの悠弥さんたる所以。だから「保健室の怪人」とか「マッド保健医」とか言われるのよね。
「神無城さん是非おつきあいしてみたらどうかしらきっとお似合いでしてよワタクシは急いでますからこれで失礼させて頂きますわっ!ごきげんようっ!」
 悠弥さんのお誘いに顔色を悪くした西方院さん、ノンブレスでそう言いきると取り巻き連れて見事な早さで撤退した。
「……お似合いだって」
 あたしはそれを呆然と見送る。
「……困りましたねぇ。似合ってしまったら夕貴に刺されるじゃありませんか」
 いや多分そういうお似合いじゃないし。
「でも悠弥さん、外科は本業でしょ?」
「……いやですよ、自分で自分を縫うなんて」
 ……悠弥さんでもいやなのあるんだ。
「それより、ありがとう。助かっちゃった」
「お役に立てて何よりです。……さて、いきましょうか」 
「……はい?」
 笑顔の悠弥さんに首をひねる。
「お暇でしょう?人体実験につきあってくださいね」
「……口から出任せじゃなかったの?」
「私は冗談とお坊さんの頭はゆったことないですからねぇ」
 にこにこと半ば強引に悠弥さんに保健室に連れて行かれる。
 まあ悠弥さんのことだからあたしに害のあることはしないと思うんだけど。
「お待たせしましたね」
 そう思いつつ椅子に座って待っていると悠弥さんがティーカップを持ってきた。
「どうぞ」
 出されたのは一見紅茶。香りは微かにリンゴに似た香り。
「…………いただきます」
 猫舌だからあまり熱いのもは苦手なんだけど、適度に冷めていたから普通に飲めることが出来た。
「……あれ?」
「どうですか?」
「どう……って……これカモミールティ?」
 無味無臭のなにかが入ってるならともかく、あたしにはカモミールティとしか思えない。
「ええ。そうですよ?」
「……でも人体実験って……」
 ああ……もしかして。
 きっとこの人ならそう言うことをする。
「ですから人体実験ですよ。気分をリフレッシュできるかどうかの」
 にっこりと、あたしの予想通りの答えが返ってきた。
 マッドだ怪人だって言われていても、この人はちゃんとケアしてくれる人。だから頼れる。 
「とりあえずもうすぐ仕事が終わりますから、それでも飲んでゆっくりしてて下さい。送っていきますから」
「え、いいの?」
 一応、あっちこっちから狙われてる身としてはあんまり単独行動はしないように言われているけれど、今日に限っては一緒に帰れる人が誰もいないから夕貴さんでも待ってようかなって思ってたんだけど。
「ええ。たまには。お弁当のお礼も兼ねまして」
「じゃあ、ゆっくり待ってるー」
 あたしは悠弥さんとカモミールのお茶に癒されながらのんびりと悠弥さんを待った。

Doubtful Wednesday

「ああ、すずちゃん、質問があるのだけどいいかな?」
 生徒会室のドアをあけた途端、中で待ちかまえていたような生徒会長殿がいきなりそう切り出した。
「……あたしが答えられる範囲でしたら」
 あたしは瞬間的に警戒モードにはいる。
「……そんなに警戒しなくてもいいと思うのだけど」
「だって伯爵の質問って、ときどき答えにくいものがありますから」
 苦笑した伯爵の引いてくれた椅子にあたしは腰かける。というか生徒会室でそう言うことやっちゃうあたりなんかもういろんな意味で凄いのよね、この人。
「たいした事じゃないのだよ。本当に。ただラーメンは中華料理なのかどうか確かめたくてね」
「………………は?」
 まじまじと伯爵を見つめ力一杯聞き返す。
 なにか今言語として理解できなかったんだけど。
「だからね、ラーメンは中華料理になるのかな?」
 何真剣に聞いてくるんだろう、この人は。
「…………少なくても日本のラーメンは中華料理じゃないとは思いますけど」
 一応、中華料理屋さんのメニューにはあるけど、確か本場中国と日本のラーメンって違う物。
「だよねぇ……?」
「それがどうかしたんですか?」
「中華部門一位がラーメンなのだよ」
 伯爵はあたしにパソコンのディスプレイを向けた。
「……学食のアンケートですか?」
 ディスプレイのデータを眺める。
 学食のメニューを増やして欲しいという要望が相当数生徒会に届いたのは数ヶ月前のこと。
 学食のメニューは他の学校と比べてもそれほど少なくないとは思うんだけど、色々変えていてもやっぱり毎日食べたりするとどうしても飽きてくる場合もある。
 だから生徒の味方がモットなー生徒会長殿はすぐに学校側と交渉。その説得力というか話術とこの学校が私立という強みでメニューによっては許可できるかもしれないと言う話に。
 とりあえず和洋中でアンケートを採ってみてその結果を学校側と話し合うことにしてあったはずなんだけど、結果がでてたのね。
「多分普通のラーメンのことだと思いますけど。学食にラーメンないのって珍しいみたいですし」
 今ある麺類のメニューはたぬきうどんと日替わりパスタ。夏場には冷やし中華も出るけど普通のラーメンというメニューはないのよね。
 他の学校の友達と学食について話したらものすごく驚かれたもん。
「でも万が一、本場中国ラーメンだったら期待を裏切ってしまわないかと」
 本気なんだかそうじゃないんだか、伯爵は顎に手をやり考えるそぶり。
「そもそも本場中国のラーメンだと学校側で却下すると思いますけど」
「……その可能性の方が高いかな、やはり」
 だいたい、学食のおばちゃんたちが本場のラーメンをちゃんと知ってるかどうかが怪しいと思う。生徒達も知ってるかどうか不明だから出されたものが本場のラーメンだと言い切ってしまえば問題はないような気もするけど。
「ちなみにすずちゃんはどんなラーメンが好みなのかな?」
「あたしはちぢれた玉子麺だったら味はなんでも好きですけど」
 あー……でもとんこつはちょっとこってりしすぎてあんまり量は食べれないかも。
「なら、すずちゃんのために麺はそれでラーメンの要請をしてみよう」
「あ、うれしい。ありがとうございますー」
 たとえ冗談でもそう言うことを言って貰えるのはちょっと嬉しい。
「でもいいんですか?生徒会長ともあろう人があたしみたいな書記ごときの要望を優先してるって噂が立っても」
 だからこっちも冗談めかして言ってみる。
「かわまないよ。すずちゃんのために望む物を提供するよ。それにどうも僕は男色家だと思われているから、たまには女性の色香に狂ってみるのもいいかもしれないし」
「なら両刀だって噂が立つといいですね」
「……いやそうではなくて」
 困ったような表情を見せるけど、それはポーズであって本心じゃないことは判ってるし。
「で、ぼちぼち本題に入りませんか?」
 あたしは伯爵に向き直る。
「まさかこれだけのことであたしを呼んだわけじゃないですよね?」
「すずちゃんからそうやって話を振って貰えると僕も話しやすくてありがたいよ」
 にっこりと浮かべた笑みに、あたしは嵌められたことに気づいた。
 多分これは聞かない方がいいこと。聞いちゃいけないこと。だからあえて伯爵は話をしようとはしなかったんだわ。……あたしが聞く気になるまで。
「……やっぱり帰ります。おつかれさまでしたー」
「まあせっかくだから僕の話を聞いて欲しいのだけれどね?」
 その笑みのまま、椅子の真ん前に移動した伯爵に、あたしは逃げることは愚か立ち上がることも出来ずに、なすすべもなく座っているしかった。
 あああ……何でこんな時に限って礼も夕貴さんもいないのー?
 あたしの心の叫びはただ虚空にこだまするばかりだった。……しくしく。

Noisy Tuesday

「ですからこの世で叶う望みは本当は何もないのです!!!!」
 ああそうですかという感じであたしは街頭で大声を張り上げているなんだか怪しげな集団をぼんやりと眺める。
 それさえなければ、いつもの帰り道。いつもの喫茶店。
「ですから今生を捨て、来世で幸せになりましょう!!!」
 お店のガラスを挟んでいても、その集団のある意味自殺示唆にも取れる声ははっきりと聞き取ることが出来きて少なからず不快指数は上がる。
 さらに「尊師の元で修行すれば必ず来世は幸せになれる」とか言ってるあたり微妙に矛盾。
 まあ、今生捨てたつもりで修行して来世に期待しろって言ってるんだろうけど。
「おまたせ」
「ねぇ、今生を捨てるのと修行するのって同義語?」
「はあ?」 
 唐突なあたしの質問にデザートセットを運んできてくれた礼の目が点になる。
「あの人達がそう言ってるから」
 あたしは視線だけで怪しい集団を示す。
 「ああ……後希会……だっけ。最近ひそかに勢力のばしてる宗教団体のような連中」
 礼があたしの正面の椅子に座りながらそれらを一瞥する。
「……………………お知り合い?」
「……一応俺にも友達選ぶ権利あるんだけど?」
「実はあの団体に参加している」
「……そんなに俺を怪しい人にしたい?」
「だってなんだか詳しそうだから」
 目の前に置かれたクリームブリュレに手を合わせてから、表面をスプーンで軽く叩けば表面に薄く三本のヒビが入る。これってたしか恋愛運が上昇気流だっけ。表面がしっかりキャラメリゼされているここのブリュレならではの占い。
 でもどうせなら勉強運の方が嬉しいのに。
「一般常識じゃないのかな、これは。ネット内うろついてたらいやでも目に付くような活動してるし」
 一般常識なくて悪かったわねー。
「そんなに目立ってるの?」
「それなりに全国規模で地味に悪目立ち」
 ……やっぱり訳分からないし。
 あたしは、外の叫び声を意図的に無視して至福の一口。表面のカリカリと中のトロトロが微妙なバランスを醸しだし、まさに絶品。生きててよかった。来世よりも今が大切。
「だいたい、望みが叶わないからって来世に望みを託すなんて、今の人生から逃げてるだけじゃない」
 来世が本当にあるかどうかすら判らないのに。
「それはすずが強いから」
 礼は苦笑してコーヒーに口を付ける。
「あの連中がつぶれないでいるってことは、それが希望だと信じちゃう人もいるって事でしょ」
 たとえ怪しくてもそれにすがらなきゃ生きていけない人もいる。そんなことは分かってるけど。
「でもああいう情熱があれば、それを方向転換してなにかに生かせる気もするんだけど」
「それは否定しないけどね」
 とはいえ、なにかを信じられる純粋さはちょっと羨ましいかも。
「だからあたしは今の人生ですべての望みを叶えるつもりー。それがたぶん今生の意味。来世に宿題は持ち越したくないし」
「大いに同意するよ。……俺は今の人生ですずが欲しいから。それが望み。来世でももちろんだけど」
 そう言うことをあっさり言えてしまうのが礼の礼たる所以。まわりに同じ学校の人がいなくてよかった。
「それは今生はもちろん、来世でも来来世でも叶わないと思うから諦めた方がいいの。やっぱり世の中にはどうがんばっても叶わない望みがあると思うし」
 クリームブリュレもアップルフレーバーティーも礼に驕ってもらってなんだけど。でもやっぱり自分を安売りしちゃいけないと思うの。うん。
「……せめてちょっとぐらいのリップサービスを期待した俺がバカでした」
「そゆことー」
 とはいえ、絶対に礼の望みが叶わないとは言い切れないんだけど。
 だけどそれは秘密。条件が夕貴さんより有利だから。
 あたしはがっくりとオーバーアクションでうなだれる礼を尻目に、ごちそうさまとココット型に手を合わせた。

Blue Monday

「なーんか天気が良すぎて不吉ー」
「なにそれ」
 窓の外を眺めて呟いた言葉に不思議そうな声が返ってきた。
「んー……どう説明していいかわかんないんだけど」
 多分感性の問題。もちろん、礼に触れて心を伝えれば理解はして貰えるけど。でも言葉を操るあたしが言葉に出来ないのはなんだか悔しい。
「……雲一つない青空なんて作り物っぽくない?」
 しばらく考えて、ようやくそれだけ口にする。
 抜けるような青空。ペンキをぶちまけたってもっとムラになるのに、今の空は馬鹿みたいに平坦な青。でも嫌いじゃない。
「作り物の空。そのうち壊れてなにかが墜ちてきたり」
 むかしむかし、空が崩れ落ちてきたらどうしようと心配した人はいたけれど。
「なにかねぇ?」
「壊れなくても、これだけなにもないと変な物とか発見しちゃう確率が濃厚だし」
 せめて微かでも雲があれば見間違いとして片付けられるけど。
「……外見るのやめなさい」
 ため息をついた礼があたしの視界を塞ぐべく窓辺に移動する。よっぽどなにかを発見してもらいたくないらしい。
 あたしも進んで発見したいわけじゃないから礼に視線を合わせる。
「でもいいのかな。言霊の聖女様が禍言を口にして」
「時と場合によっては。禍言ってほどでもないし。っていうか誰が聖女よ」
 何処をどうがんばっても聖女の柄じゃないことはあたし自身知っている。
「じゃあ魔女」
「それもちょっと」
 どちらかと言えばこちらの方がまだ近いような気もするんだけど、でもそんなに専門的なことが判るわけでもないし。
「わがままだなー、この子猫ちゃんは」
「うあ、最低」
 おもいっきり眉をしかめてみせる。
「だったらなにが満足ナンデスカ。お嬢さん」
「そーねー……いっそ『女王様』とか」
「では、女王陛下におきましてはご機嫌麗しゅうこととは存じますが」
 ふいに背後から、できればいま一番聞きたくない声が聞こえた。
「私の出しました課題の方はいかがなされましたか」
「……ねえ、いるならいるって教えてくれてもいいと思うんだけど」
 現実を思いだし、怖くて振り向けないあたしは正面の礼にとりあえず文句を言ってみるけど返ってきたのは軽く肩をすくめる仕草。どうやらいきなり現れたらしい。
「一時間かけてようやく半分か」
「あたしにしては快挙よ、快挙。これ以上やってあったら空から変な物が降ってきちゃうわ」
 呆れた様子で手元のプリントを覗き込む夕貴さんが視界に入ってきたので噛みついてみる。
「しかも間違ってる」
「………………ズルしないで自分で解いた証拠じゃない」
「一応、すずの名誉のために言っておくと、解き方はあってたよ」
 礼が苦笑する。
「途中でなんだか不思議な計算にはなってたけど」
「判ってたなら教えてくれたっていいでしょ」
 どうりでなんだか言いたそうな表情だと思った。
「解き方理解してるならそれほど問題ないと思って」
「今だけ理解してても仕方ないが」
「今だけでも理解させた俺を褒めて欲しいね」
「ねえちょっと。なんだか遠回しに馬鹿って言われてる気がして仕方ないんだけど」
 むくれて見せたあたしに夕貴さんはため息一つ。
「……証明問題で証明すべき所を『略』と書いてみたりカレーの作り方を書くような奴にははっきりとそう言ってやりたいが?」
「ごめん、すず。さすがにそれはフォローできない」
 低く呻いた礼があたしから目をそらす。
「他にも勘で答えが書いてあったりしてもの凄い点数だった気がするんだが?」
「多分気のせいだと思うの」
 あたしは夕貴さんから目をそらす。
 ああ……空が青い。
「俺も気のせいだと思いたいな」
 ううう。そんなに深刻な顔しなくっても。あたしが数学だめなのは知ってるくせに。
「とにかくそのプリントを終わらせれば、この間のテスト結果はなかったことにしてまともな評価をつけてやる」
 その心使いはありがたくて涙が出るけどプリント問題も訳が分からなくて涙が出てくるのは何故。教師としての夕貴さんなんか嫌いだー。
「家でやっちゃだめー?」
「おそらくよけいだらだらするだけだと思うが?」
 ああ……やっぱりあたしのことちゃんと理解してるんだわ、夕貴さん。ちっとも嬉しくないけど。
「……やっぱり不吉。この天気」
 軟禁場所である数学準備室の窓から再度空をみる。
「またそこに戻って現実逃避?」
「ちがうー。こんなにいい天気なのに外に出られないなんて不吉だからとしか考えられないもん」
 外はこんなにもいい天気で。
 きっと外はものすごく気持ちがいいにちがいないけれど。こんな天気の中を帰れば爽やかな気分になれるだろうけれど。でも不吉だからまだ外に出ない方がいいに違いない。
「……それって、酸っぱいブドウ」
 自分の手の届かないところにあるブドウは、きっと酸っぱいから。だから諦めた方がいい。
「なーにかいった、礼君?」
「いーえー別に何もー」
 家に帰れないなら、時間つぶしにプリントをやるしかない。うん。
「とりあえず、あと一時間やる。それまでに全部終われば『安眠』の新作デザートもつけてやってもいい」
「ほんとっ!?」
 あたしは最近発表された「安眠」の新作デザートに思いを馳せ、礼の呆れたため息を無視してプリントに取りかかった。

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